JERRY GOLDSMITH: THE LEGEND OF FILM COMPOSER(2024)
作曲家:ジェリー・ゴールドスミス
首席指揮者:奥村伸樹
演奏:フィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラ
合唱指導:泉智之
コンサートマスター:金子昌憲
音楽監督:戸田信子
司会:伊藤さとり
2024年8月17日
東京オペラシティ コンサートホール(東京)
(Click here for the original English text)
PART 1: うれしい想定外
実は、このコンサートに行くことに若干ためらいがありました。
まず、私のポリシーとして、作曲者が自分の作品の演奏や指揮をしない限り、映画音楽のコンサートには行かないことにしていたことが理由の一つです。どんなに優れたオーケストラでも、作曲者がいないと大切なものが欠けているような気がするからです。
さらに、有名な東京オペラシティのコンサートホールでの公演にもかかわらず、チケットが2,000円だったからです。日本で開催される映画音楽コンサートのチケットは平均1万円するので、はるかに安価と言えます。
これほど価格に差があると、オーケストラのレベルが気がかりになってしまうのは当然のことでしょう。
ところが、昨晩の素晴らしいコンサートから帰宅した私は、自分が完全に間違っていて、心配する必要などまったくなかったことを実感していました。
トップクラスのクオリティーを誇るオーケストラ、合唱、指揮者だけでなく、ジェリー・ゴールドスミスの楽曲に対するオーケストラと主催者の心からの熱意と愛情に圧倒されました。ゴールドスミスの熱烈なファンで埋め尽くされたコンサートホールでそうした感動を味わい、忘れられないコンサートになりました!
PART 2: SNSマーケティングのお手本
コンサートが開催されるまでの間、X、Facebook、InstagramといったSNSでのマーケティングキャンペーンが大成功を収めていました。
リハーサルのレポートや写真、コンサートに関するファンからのコメントのリポスト、プレコンサートのお知らせ、コスプレのガイドラインなど、最新情報が継続的に投稿されていました。そうしたきめ細かいコミュニケーションは、高い評価を受けている作曲家でありコンサートプロデューサーでもある戸田信子さんとフィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラが意欲的に取り組んでいるこの特別企画において、主催者がどれほどファンとつながり、聴衆を呼び込もうとしているかを物語っていました。
これはまさに、コンサートのマーケティングキャンペーンをSNSで成功させる方法のお手本であり、それらのアカウントを運営しているすべての方が称賛と昇給を受けるべきです!
PART 3: プレコンサート
コンサートが始まる30分前に、プレコンサートが開催されました。
15人ほどの小編成のオーケストラが、ディズニーランドのアトラクション「ソアリン・オーバー・カリフォルニア」のためにゴールドスミスが作った曲を魅力的にアレンジして演奏してくれました。
少ない奏者にもかかわらず、ゴールドスミスのメロディーが生き生きと奏でられ、すてきな演奏でした。まるで空に舞い上がっていくかのように😉
PART 4: コンサートプログラム
こちらはコンサートのプログラムの写真です。
PART 5: 第1部
- 映画『エアフォース・ワン』より「メイン・タイトル」
- 映画『氷の微笑』より「メイン・タイトル~氷の微笑のテーマ」
- 映画『トゥルー・ナイト』より「約束」
- 映画『風とライオン』より「風とライオン」
- 映画『ムーラン』組曲
- 映画『グレムリン』組曲
コンサートが始まり、映画に精通している魅力いっぱいの司会者である伊藤さとりさんがステージに登場し、ゴールドスミスとコンサートで演奏される楽曲について簡単に紹介してくれました。
次に、豊富な実績を有する指揮者の奥村伸樹さんが登場し、『エアフォース・ワン』から「メイン・タイトル」の素晴らしい演奏を披露してくれました。軍隊のようなパーカッションと強い愛国心を感じさせるこの音楽で、漆黒の背景に青色の文字でタイトルバックが映し出される『エアフォース・ワン』のオープニングをすぐに思い出しました。シンプルながら意図を感じさせるオープニングで、ゴールドスミスの音楽も相まって、映画の雰囲気を決定付ける完璧な始まり方です。
『氷の微笑』の「メイン・タイトル~氷の微笑のテーマ」では、そのミステリアスな音色と抑えたセクシーさにたちまち引き付けられました。座席できまり悪そうにしていた男性は私だけではなかったはずです……。
『トゥルー・ナイト』の「約束」は、息をのむほどの優れた演奏で、気高さ、力強さ、勇敢さを強く感じ、生演奏で聴く価値を実感しました。
『風とライオン』の「風とライオン」は、ぞくぞくするような打楽器パートと英雄らしいテーマを盛り込んだ実に素晴らしい演奏でした。私の耳にはまるでオリジナル音源のように聴こえました。
『ムーラン』組曲は、ゴールドスミスが手掛けていない「家に名誉を」と「リフレクション」のオーケストラバージョンが収録されているディズニー映画サウンドトラックアルバムとまったく同じでした。この組曲には、思いやりを表現した壮大なテーマも含められていました(すみません、この映画を見たのがずいぶん前のことなので、どこのシーンで使われていたか思い出せません!)。何年も前にこのテーマを初めて聴いた時、『エアフォース・ワン』の家族というテーマによく似ていると思ったことをはっきりと覚えています。
『グレムリン』組曲は、アルバム『Goldsmith Conducts Goldsmith』の曲と同じでした。オープニングのフルートによる物悲しいメロディーや、聴衆が喜ぶ「グレムリン・ラグ」などが印象的でした。「グレムリン・ラグ」では、ドラム奏者の情熱的な歓喜が曲をリードしていました。
PART 6: 第2部
- 映画『猿の惑星』より「人間狩り」
- 映画『スウォーム』より「メイン・タイトル」
- 映画『エイリアン』より「ハイパー・スリープ」
- 映画『エイリアン』より「エンド・タイトル」
- 映画『ポルターガイスト』より「エンド・タイトル~キャロル・アンのテーマ」
- 映画『オーメン』組曲
第2部は、『猿の惑星』の「人間狩り」のスリリングな演奏で始まりました。オリジナル音源で使用されていた珍しい楽器はありませんでしたが、それでもなお優れた生演奏でした。ピアニストがパニックの続く様子を見事に表現し、角笛の象徴的なパートでは代わりにフレンチホルンが小さい音から徐々に強い音を奏でて狂乱の雰囲気を表していました。全体的にオリジナル版の野蛮さや悪夢のような印象は抑えられていましたが、十分に称賛に値する演奏でした。
これまで、『スウォーム』の「メイン・タイトル」に心を奪われたことはありませんでしたが、生演奏で聴くとオープニングでの蜂の羽音をモチーフにした音にいっそう面白みを感じました。
『エイリアン』からは、邪悪さと不吉さに満ちた「ハイパー・スリープ」と「エンド・タイトル」の2曲が披露され、これ以外はないという選曲でした。「エンド・タイトル」でトランペットが鳴り響いた時、まるでゴールドスミスの天国にいるようで、背筋がぞくぞくしました。
正直に言うと、ゴールドスミスの作品では、生き生きとした音楽よりも感情をむき出しにしているような楽曲の方が好きなので、『ポルターガイスト』の「エンド・タイトル~キャロル・アンのテーマ」を生演奏で聴くことができてとてもうれしかったです。ゴールドスミスのこの名曲が女性による合唱で歌い上げられていて感動しました。その歌声が最後に悪魔のような笑い声に変わることを少しだけ期待していましたが、そうはなりませんでした。そうなっていたら、怖がる人も喜ぶ人もいたことでしょう!
『オーメン』組曲では、にじみ出るような脅威と力強さを感じ、男女混声の合唱による猛烈なエネルギーで身震いするほどでした! この組曲は、「アヴェ・サタニ」、「悪魔の嵐」、「新任大使」、「犬の襲撃」など、ゴールドスミスによる「悪魔の音楽」(映画にちなんだ冗談です!)で構成されていました。生演奏で聴ける機会に恵まれて本当に良かったです。
PART 7: 休憩時間後の写真撮影
休憩時間が終わると、伊藤さんと戸田さんがステージに登場し、聴衆がオーケストラの写真を撮る時間を設けてくれました。日本以外ではあまりないことかもしれませんが、日本のコンサートホールでは共通ルールとして、生演奏中の写真や動画の撮影は禁じられています。
コンサートに来ていたたくさんの人から、権利(そして間違いなく費用)の問題で、このコンサートの映像化や音源化はないだろうと聞きました。とても残念です。
PART 8: 第3部
- 将軍組曲(『マッカーサー』&『パットン大戦車軍団』より)
- 映画『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』より「砂漠の怒り」
- 映画『スター・トレック:ファースト・コンタクト』より「メイン・タイトル~ロキュータス」
- 映画『スター・トレック』より「メイン・タイトル」
- 映画『トータル・リコール』より「ビッグ・ジャンプ」
- 映画『トータル・リコール』より「火星の青い空」
- 映画『トータル・リコール』より「エンド・クレジット」
第3部は、ユニバーサル・ピクチャーズ100周年を記念してゴールドスミスが作曲したユニバーサルロゴのファンファーレにブライアン・タイラーが秀逸なアレンジを施した曲で幕を開けました。合唱が重なった時にはうっとりと聴き入ってしまいました……。このバージョンが今も映画館で流れてくれればと思わずにはいられませんでした!
曲が終わると、指揮者は間髪入れずに『マッカーサー』と『パットン大戦車軍団』のメインテーマを含むきびきびとした将軍組曲の演奏を始めました。エコープレックスがなくても、トランペット奏者はその音色を見事に再現していました。
昨晩ゴールドスミス作品の演奏を聴くまで、『ハムナプトラ/失われた砂漠の都』はあまり高く評価していませんでしたが、「砂漠の怒り」の終盤に向かって、メインテーマに女性の合唱が重なると鳥肌が立ちました。Intradaレーベル(ダグラス・フェイク氏のご冥福をお祈りします)から発売されたスペシャルコレクション版を引っ張り出して聴き直したいと思います。
ファンが多い『スター・トレック』からは、『スター・トレック:ファースト・コンタクト』の「メイン・タイトル~ロキュータス」と、『スター・トレック』の「メイン・タイトル」の2曲が演奏されました。前者の演奏はとりわけ豪華で、ホルンが勇気と自尊心を巧みに表現していました。
待望の『トータル・リコール』からは3曲が披露されました。
「ビッグ・ジャンプ」のスリリングな演奏では、このコンサートで唯一、キーボードなどアコースティック楽器以外でシンセサイザーのメロディーを再現していました。
「火星の青い空」は、映画のフィナーレに合わせた広がりのある勝利の曲で、素晴らしい演奏でした。
「エンド・クレジット」では、ドラムセットとパーカッションが主役でした。私には音楽の素地がないので、楽器の正確な名称が分からないのですが、使用されていたドラムセットは通常とは違うものだったように思います。アコースティックでありながらも、オリジナル音源と同じようなシンセサイザーの音に聴こえたからです。ウッドブロックも入り、私も足でリズムを取っていました。
PART 9: アンコール
- 映画『ルディ/涙のウイニング・ラン』より「メイン・タイトル」
鳴りやまない拍手に応えて、アンコールで『ルディ/涙のウイニング・ラン』の「メイン・タイトル」が演奏されました。寂し気なハープの音色から始まり、滑らかに入ったフルートが象徴的なテーマを奏で、心が和みました。合唱はなかったものの、弦楽器で盛り上がるクライマックスには深く感動しました。
この曲で、ゴールドスミスのコンサートプログラムは華々しく、心から満足のいく終演を迎えました。
この夜の締めくくりとして、オーケストラはジョン・ウィリアムズがアレンジした映画音楽メドレー「トリビュート・トゥー・フィルム・コンポーザー」を演奏して聴衆を沸かせました。フィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラ主催のコンサートでは毎回このメドレーが最後に演奏されると聞いていましたが、非の打ち所がない演奏でした!
PART 10: 映画音楽のファンによるファンのためのコンサート
冒頭で述べたように当初私がこのコンサートに対して感じていたためらいは、1曲目が終わるまでには吹き飛んでいました。
十分に練られたプログラム構成から、知識が豊富な司会者に至るまで、ファンによるファンのためのコンサートであることがはっきりと分かりました。そして、そのことがこの特別なイベントを成功に導いていました。
PART 11: ゴールドスミスがいなくても問題なし!
このレポートの冒頭で、私には、作曲者が自分の作品の演奏や指揮をしない限り、映画音楽のコンサートには行かないというポリシーがあると述べました。
コンサート中、亡きゴールドスミスはそこにはいませんでしたが、今回の演奏とオリジナル版の演奏に違いがあるかどうか分からない時すらありました。
それを成し遂げるのは極めて難しいことであり、フィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラとこの公演に携わっている関係者の、スキルとクオリティーに対するひたむきさを明確に裏付けています。
今もゴールドスミスが存命であれば、きっと誇りに思ったことでしょう。
関係者の皆さん、ブラボー😉
PART 12: コンサートグッズ
無料のプログラム(日本語のみ)以外、コンサートグッズは、ポスターさえも販売されていませんでした。ホワイエに貼られていたポスターを持ち帰ってしまいたくなりました……(笑)
テーブルには、過去にフィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラが主催したコンサートの無料プログラムが並べられていました。
PART 13: 記念品
コンサートが終了すると、オーケストラの関係者がA4サイズのフライヤー(配布されていなかったもの)を配って回り、コンサートが終わっても帰らずおしゃべりをしていた大勢の熱烈なゴールドスミスファンに手渡していました。ゴールドスミス推しの仲間たちと一緒にいた私も1枚もらいました!
このすてきな記念品をくれた親切な方へ、心から感謝します。一生大切にします!
こちらは上のフライヤーの高画質スキャン画像です。
PART 14: 謝辞
フィルム・スコア・フィルハーモニック・オーケストラのトロンボーン奏者であるTORUさん(Xアカウント:@ToruIchizuka)に心よりお礼を申し上げます。TORUさんは、『オーメン』組曲を構成していた曲名や、『猿の惑星』の「人間狩り」で角笛の代わりに使用されていた楽器など、私の質問に答えてくださいました。
PART 15: お読みいただいた皆さまへ
あなたもこのコンサートに行かれましたか? コンサートはいかがでしたか?
私のレポートについてのご感想も、ぜひ「Comment」欄からお寄せください。また、「Contact Me」ページから直接私にメッセージをお送りいただけます。
(当レビュー記事は、ビジネス翻訳・通訳のプロフェッショナル、(株)ダイナワードによる翻訳です。)
One thought on “Jerry Goldsmith: The Legend of Film Composer ~ 2024”